フェイクニュースは6倍速く拡散! 情報を得るときはエコーチェンバーとフィルターバブルに注意

2024年7月25日

「Windows95」の発売により、インターネットが広く普及し始めてから約30年。

SNSや動画配信などさまざまなデジタルサービスにより、誰もが気軽に情報を発信し、インターネット上の膨大な情報やデータを容易に手に入れられるようになりました。

しかし、誰もが気軽に情報を発信できるようになったことで、情報の質そのものよりも、「人に注目されたい」という思いが強くなり、過激なタイトルや内容、憶測のみで構成された事実に基づかない記事などが拡散されています。

憶測だけで情報が拡散された例

憶測のみで情報が拡散された例として、たとえばコロナ禍において「トイレットペーパーの原材料を中国から輸入できなくなる」という情報が拡散された結果、一時期、トイレットペーパーが店頭から消える事態に陥ったことが挙げられます。

総務省は2020年5月、勉強や仕事以外で日常的にインターネットを利用している15歳から69歳までの男女を対象に「新型コロナウィルス感染症に関する情報流通調査」を行っています。

この調査で、「正しい情報と思った・情報を信じた」または「正しい情報かわからなかった」場合に、その情報を1つでも共有・拡散した理由についてアンケートをとったところ、もっとも多かったのは、「その時点で、その情報が正しいものだと信じ、ほかの人にとって役に立つ情報だと思った」が36%ともっとも多く、「情報の真偽に関わらず、その情報が興味深かったから」が32.7%と続いています。このことから、一定数の人が情報の真偽に関係なく情報を共有・拡散していたことがわかります。

新型コロナウイルスに関する間違った情報や誤解を招く情報を共有・拡散した理由
新型コロナウイルスに関する間違った情報や誤解を招く情報を共有・拡散した理由/
新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査(最終閲覧日:2024.6.28)

また、当時拡散された新型コロナウィルスに関する間違った情報や誤解を招く情報を具体的に例として挙げたうえで、その情報を初めて見た・聞いたときにどう思ったかをアンケートしたところ、そのなかにひとつでも「正しい情報だと思った・情報を信じた」と回答した人が全体で28.8%いました。年代別に見てみると15歳から19歳が36.2%、20代が34.4%と若い世代ほどフェイクニュースを信じていたことが分かります。

「正しい情報だと思った・情報を信じた」人の比率
「正しい情報だと思った・情報を信じた」人の比率/
新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査(最終閲覧日:2024.6.28)

フェイクニュースの拡散スピード

意図的に発信された虚偽情報や、根拠のないうわさ話などは古くからありますが、SNSの発達により、そういった情報の拡散スピードが大きな問題となっています。

先述した「トイレットペーパー」の例では、この情報が拡散される前日までは1日あたり2000件程度だった「トイレットペーパー」という言葉を含む当時のTwitter(現「X」)の投稿が、拡散された当日には前日の10倍程度、その翌日にはさらに10倍に急増していたというデータがあります。

2018年に科学雑誌「Science」には、300万人のTwitterユーザーの間で流布したニュース項目12万6000件を分析したところ、フェイクニュースは正しいニュースよりも速く、広く拡散することが明らかにした研究結果が掲載されています。

この研究では、正しいニュースが1500人に到達するのに要する時間は、フェイクニュースが伝わるのに要する時間の6倍もかかっていることを明らかにしています。

エコーチェンバー、フィルターバブルとは?

SNSでフェイクニュースが拡散しやすいのは、SNSが閉じられた環境だからです。

人はもともと自分と似ている人とつながりたいという欲求を持っています。たとえば「出身地が同じ」「利用する駅が同じ」というような共通の話題があることで、心理的に一気に近づき、初対面の人とでも会話がはずむことがあります。

また、ネット上に情報があふれている現在、客観的に情報を向き合っているつもりでも、気が付かないうちに自分に都合のいい情報ばかりを見ている可能性があります。つまり、自分と似た意見を受け入れている一方で、自分とは違う意見を排除する傾向があるということです。

こうした閉じられた環境であるSNSで気を付けなければいけないのが「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」です。

エコーチェンバーとは、自分と似たような価値観や考え方のユーザーとつながることで、同じような情報ばかりが集まってくる情報環境のことです。「エコー」はこだま、「チェンバー」は部屋という意味です。

エコーチェンバー現象の問題点は、同じ意見ばかりを見ているうちに、間違った情報でさえ正しいと思い込んでしまい、ほかの意見が見えにくくなることです。これがフェイクニュースを信じてしまう心理につながっています。

一方、「フィルターバブル」とは、インターネットで見ている情報が、自分の好きなものや興味のあるものに限られてしまう状態のことです。自分とは反対の意見は排除(フィルタリング)されるため、その存在そのものに気づきにくくなります。

なお、総務省が日本、アメリカ、ドイツおよび中国の4カ国を対象に行った調査によると、「検索結果やSNS等で表示される情報が最適化されていることを認識しているか」という質問に対し、日本では「知っている」と回答した割合が44.7%とほかの国に比べて低いことが分かっています。

検索結果やSNS等で表示される情報がパーソナライズされていることへの認識の有無
検索結果やSNS等で表示される情報がパーソナライズされていることへの認識の有無/
令和5年版情報通信白書(最終閲覧日:2024.6.28)

ファクトチェックとは

ある情報が話題になっているとしても、それが真実であるかどうかは分かりません。

その情報が真実であるかどうかを確認することをファクトチェックと言います。

ファクトチェック白書2024では、ファクトチェックを次のように定義しています。

「ファクトチェック」(fact-checking)とは、言説・情報の内容が事実に基づいているかどうか、正確かどうかを調査し検証した結果を発表する営みをいう。

ファクトチェック白書2024

各国でのファクトチェックの認知度について、総務省が2022年に調査を行ったところ、「内容や意味を具体的に知っている」「なんとなく内容や意味を知っている」「言葉は聞いたことがある」の合計が、日本は46.5%とほかの国と比較して低いことが分かりました。

ファクトチェックの認知度
ファクトチェックの認知度/令和5年版情報通信白書(最終閲覧日:2024.6.28)

ファクトチェックの基本原則は、客観的な事実に基づいているかどうかを公正に検証することです。

国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は、ファクトチェックの原則として、次の5つを挙げています。

ファクトチェック5つの原則

  • 不偏不党・公正性(nonpartisanship and fairness)
  • 情報源の透明性(transparency of sources)
  • 財源と組織の透明性(transparency of funding and organization)
  • 方法論の透明性(transparency of methodology)
  • オープンで誠実な訂正(open and honest corrections)

欧米では、非営利団体が中心となりファクトチェックの取り組みを進めていて、主にニュースメディア等が配信するニュースや情報の真偽のチェックや偽情報の検出を行っています。

一方、日本ではこれまでファクトチェック活動は限定的なものでした。

その理由として、欧米諸国と比較して日本のメディアはきちんと取材をしたうえで組織的な情報編集・発信を行う仕組みが機能していたからだと考えられます。

たとえば放送法では、第4条「国内放送等の放送番組の編集等」において、次のように定めています。

第3項 報道は事実をまげないですること

第4項 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること

放送法

この法律によって虚偽情報がすべて取り締まれているわけではありませんが、これまでメディアは、「事実を曲げない」ことを念頭に情報を発信してきました。

しかし、インターネットやSNSの発展で誰もが情報を発信できるようになったため、国内だけではなく国外からも真偽不確かなさまざまな情報が発信されていることから、日本でもファクトチェックを推進する必要が高まっています。

これを受け、国内でもファクトチェックを行う非営利団体が設置され、国際的なファクトチェック団体への署名を目指す取り組みが進みつつあります。

さいごに

フェイクニュースには、だますことを目的としたものもあれば、悪意はなくても間違っている情報もあります。また、明らかに捏造されたものや、害を与えるつもりはなくても騙されてしまう可能性があるものもあります。

フェイクニュースを流すことで、名誉毀損罪や信用毀損罪、偽計業務妨害罪などの犯罪に問われることもあり、逮捕される可能性もあります。また、SNSで拡散しただけでも違法行為に問われる可能性もあります。

情報を発信するときはもちろん、情報を得るときにも十分な注意が必要です。

koedoでも、正しい情報を得るための努力を今後も続けてまいります。

(koedo事業部)

【参考】