小学生のときの体験がその後の成長に好影響? 文部科学省がすすめる「体験活動」とは
子どもたちが生きる未来は、どのような未来なのか想像してみたことはありますか?
日本の人口は14年連続減少し、全都道府県で人口が減っています。
令和6年6月、厚生労働省は令和5年の日本の出生率は過去最低を更新し72.7万人と発表。令和6年の出生率は70万人を割り込むとみられています。
また、日本創生会議人口減少問題検討分科会によると、2040年には49.8%の市町村で、20歳から39歳の女性の数が5割以上減り、全国約1800ある市町村のうち896の市町村が消滅するおそれがあるとされています。
こうした状況のなか、次代の社会を担う子どもたちは多様な人々と協働しながら、さまざまな変化を乗り越えていくことが求められています。この事態を乗り越えるために文部科学省は、体験活動を通じて自己肯定感や自律性、協調性、積極性といった非認知能力の育成が重要だと考えています。
ところが、少子化や核家族化が進むなか、現代の子どもたちは「リアルな体験」が圧倒的に不足しています。そのため、近年、文部科学省は学校と企業が連携できるような仕組み作りを進めています。
体験活動とは
文部科学省が考えている仕組みは、学校と企業が連携し体験活動の場を増やそうというものです。平成19年の中央教育審議会答申において、「体験活動」は次のように定義されています。
体験を通じて何らかの学習が行われることを目的として、体験する者に対して意図的・計画的に提供される体験
企業等と連携した子供のリアルな体験活動の推進について
では、体験活動とは、具体的にどのようなものを指しているのでしょうか。文部科学省は、体験活動の内容を大きく次の3つに分類しています。
- 生活・文化体験活動
放課後に行う部活動、スポーツ、お手伝い、地域や学校における年中行事など - 自然体験活動
登山やキャンプ、ハイキング等の野外活動など - 社会体験活動
ボランティアや職場体験など
このほかにも、たとえば企業が行っている専門家との交流、外国人等による国際交流体験なども体験活動に含まれると考えられています。
体験活動の現状
いまの子どもたちは、自然体験活動の不足、家庭間におけるコミュニケーションの不足、地域における人間関係の希薄化などによって、学習意欲の低下が指摘されています。
国立青少年教育振興機構が、平成18年度から青少年の自然体験、生活体験等について、小学生とその保護者、および中学2年生、高校2年生を対象に全国規模の調査を行っています。
令和5年に行った調査では、1年間の学校外の体験活動について「実際にしたこと」と「したいこと」の両方を尋ね、子どもたちが希望する体験活動ができているかを比較しています。
この調査によると、13項目のうち12項目で9割以上の小学生の保護者が「とてもしてほしい」または「少ししてほしい」と回答しています。しかし、実際にはどの項目も「してほしいこと」よりも「実際にしたこと」の割合が低く、たとえば「社会のために役立つ活動をすること」は「してほしい」の割合が63.9%である一方で、実際にした割合が7.5%でした。
自然体験
平成24年から令和4年の10年間を比較すると、「自然体験が多い」と回答する割合は平成24年が15.8%だったのに対し令和元年は13.2%に減少。コロナ禍において自粛していたイベントがすべて復活していない可能性もありますが、令和4年の調査でも割合は増えずに10.3%とさらに減少しています。
自然体験について、もう少し細かく見てみると、「海や川で泳いだこと」「昆虫を捕まえたこと」「大きな木に登ったこと」「ロープウェイやリフトを使わずに高い山に登ったこと」の4つの項目で、「何度もある」「少しある」と答えた割合は、平成24年から令和元年にかけて微減、令和4年にはさらに減少していることが分かりました。
生活体験
子どもの生活体験についての調査では、「ナイフや包丁で果物の皮をむいたり野菜を切ったこと」「小さな子供を背負ったり遊んであげたりしたこと」「道路や公園などに捨てられているゴミを拾ったりしたこと」「赤ちゃんのおむつをかえたり、ミルクをあげたこと」のいずれにおいても「何度もある」「少しある」と答えた割合は令和元年までほぼ横ばい状態が続いていました。ところがコロナ禍を経た令和4年には、どの体験も微減しています。
公的機関主催の体験活動の参加率の減少
小学生が、公的機関や民間団体等が行う自然体験に参加した割合はどうでしょうか。
この調査によると令和元年には参加率が50%でしたが、令和4年には36.7%と大幅に減少しています。
特に「子ども会やスポーツ少年団などの青少年団体」「PTA・自治会など地域の団体」の参加率が大幅に減少していることが分かりました。
公的機関や民間団体等が行う自然体験に参加しなかった理由として、「子どもが関心を示さないから」「子どもが嫌がるから」「子どもが行事に参加する時間がないから」と回答した割合が令和元年よりも令和4年の方が増加しています。
また、「団体や行事などがあることを知らないから」「参加方法が分からないから」の割合も一定数あることから、公的機関や民間団体等が企画した体験活動が対象者に正しく伝わっているとは限らない可能性があります。
参加率減少の背景にあるものとは
国立青少年教育振興機構が行った令和元年の調査では、「子どもと一緒に体験学習することが苦手」と考えている保護者の子どもの方が、体験活動の経験が少ない傾向にあることが分かりました。
また、同調査では子どものころに自然体験が少なかった保護者ほど「子どもと一緒に体験活動することが苦手」と考えている傾向にあることが分かりました。
つまり、保護者の子ども時代の体験の少なさが子どもの体験活動の減少につながっていることとなり、体験不足の負の連鎖が生じることが危惧されています。
体験活動による影響
文部科学省の調査によると、小学生のころに「自然体験」をよくしていた子どもは、高校生になったときに自分に対して肯定的だったり、自分に満足していたりするなどの自尊感情や、自分の感情を調整したり、将来に対して前向きであったりなどの精神的な回復力が高くなる傾向があることが分かりました。
つまり、小学生のころに体験したことは、その後の成長に良い影響を与えているということです。
また、小学生のときに体験活動を何度も経験している子どもは、家庭の経済環境に左右されることなくその後の成長によい影響が与えていることが分かりました。
さいごに
いまの子どもは、少子化・核家族化の影響で、圧倒的に「リアルな体験」が減少しています。
令和4年度の調査では、小さな子どもと遊んだ経験が「何度もある」「少しある」と回答した子どもは8割近くある一方で、おむつを替えたりミルクをあげたりした経験が「何度もある」「少しある」と回答した子どもは3割に届いていません。
また、今回の調査では約半分の子どもが、大きな木に登った経験がほとんどないと回答しています。
しかし、小学生のときに体験したことは、高校生になったときに良い影響を与えていることが分かっています。しかも、それぞれの体験の特性によって、その後の意識に異なる影響がみられています。
つまり、小学生のうちに何か1つの体験ではなく、さまざまな体験をすることが大切だということです。
koedoでは、今後も子どもの体験活動による影響を定点観測していこうと考えています。
(koedo事業部)
【参考】
- 企業等と連携した子供のリアルな体験活動の推進について/子供の体験活動推進に関する実務者会議
- 2024年のわが国出生数は70万人割れの公算大/日本総研
- 自治体、2040年に半数消滅の恐れ 人口減で存続厳しく/日本経済新聞
- 青少年の体験活動等に関する意識調査(令和4年度調査)/国立青少年教育振興機構
- 「多様な体験活動の機会づくりと参加促進」について/國學院大學 青木康太朗
- 青少年の体験活動などの効果を経年的な視点から分析を行ったところ、子どもの頃の「体験」は未来社会を担う子どもたちの健やかな成長を確かなものとするために必要な要素であることが見えてきました/文部科学省