【授業のためのICT入門】動画制作をもとにした総合的な教育

2021年4月22日

そろそろ各学校にタブレットが揃ったころでしょうか。早いところではすでに授業で使い始めた学校もあるようです。いよいよ新年度からは授業に取り入れる回数も増えてくることでしょう。大変楽しみです。

さて、前回はタブレットのカメラ機能を使った例をいくつかご紹介いたしました。今回もカメラ機能になりますが、ただカメラで写真を撮るだけでなく、そこに編集を加えていくと「作品」を作り出すことができます。

例えば、

作品を作りだすためには…

  • 「粘土や紙などでキャラクターを作成する」
  • 「そのキャラクターを使ったストーリーをつくる」
  • 「シナリオ(撮影計画)を作成する」
  • 「キャラクターを少しずつ動かしてコマ撮りをする」
  • 「静止画をスライドショー(動画)に編集する」
  • 「セリフやナレーションを考え、録音する」
  • 「効果音(もしくはBGM)をつける」

ことで、ストップモーションアニメーション(静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かしながらカメラで撮影し、それ自身が連続して動いているかのように見せる撮影技術・技法)を作成することができます。さらに、

「発表会を行い、感想を伝え合う」

「クラスごとにDVDなどに焼いて、持ち帰る」

と、自分の作品だけでなく、クラスの思い出として共有することができます。

1つの作品を作る過程で、図画工作(造形)、国語(物語をつくる、感想を伝え合う)や理科や技術(同じ距離で固定しながら写真をとる)、音楽(音入れ)、そしてコンピューター・リテラシー(動画ソフトの編集やDVDをつくる作業)といった、様々な教科の中で展開することができるのです。

特にストーリーやシナリオをつくるという作業は、単純にお話を考えるだけでなく、写真を撮って動かすことを前提にするため、プログラミング的思考(論理的思考)の要素を強くもちます。

このように、授業にICTを導入することは、いままで以上に教科を横断した知識や技術を集結することになります。それらをコンピューター上で形にすることでアウトプット、定着を行うことができるのです。

コンピューターには、「結果を可視化できる」「何度でもやり直せる」「保存や複製が簡単にできる」という利点があります。「タブレットを使わなければならない」という視点で考えるとどうしても固定的な使い方になりますが、「アウトプット用のツールとして使用する」という視点から見れば、こんなに便利なものはありませんし、子どもたちのコンピューター・リテラシーも、使いながら自然に身につけていくことができるでしょう。

もう少し、このコンピューター・リテラシーのお話をしましょう。例えばこのアニメーション制作の場合、動画編集ソフトを使うこと、DVDを作成すること、カメラ機能を使うことの3点を子どもたちは学びます。まず、動画編集ソフトでは、

動画編集ソフトで学べること

  • 動画編集とは何をする(タイムラインに動画や静止画を並べ、字幕や画面切り替え効果、ナレーションやBGMを挿入する等)のかを知る
  • 複数の効果をタイムライン上で一覧として見ることで、アニメーションの基本的な仕組みを知ると同時に、立体的なものの見方を身につける
  • 動画編集ソフトを使っているときと、動画として出力するときのファイルの形(拡張子)が違うということを知る(コンピューターがどう動いているかを理解する)

を学ぶことができます。DVD作成では、

DVD作成で学べること

  • DVD(Digital Versatile Disc)の仕組み、構造を知る
  • 同じものを何枚も作ることができることがどういうことなのかを考える(データの機密性など、情報セキュリティの知識として)

を知ることができ、カメラ機能では、

カメラ機能で体験できること

  • コマ撮りの際に気をつけること(カメラを固定して撮る、どのくらいの枚数を撮ったらどのくらいの滑らかさで再生できるのかを知る等)

を体験することができます。コンピューター・リテラシーは、耳で聞いても、わかったような気になるだけで身につきません。実際に触りながら、そのタイミングで説明を受けたり、考えたりすることで自然と覚えていくということが有効だと思います。

また、こうした作業をどの学年で行うかにもよりますが、例えば一連の流れを通して、映像を扱う仕事には何があるのかという話に発展させることもできます。アニメーションや映画、TV番組の制作に関する職業にはどんなものがあるのかを調べることで、キャリア教育につながるのです。

いまですと、YouTuberといった新しい職業(?)も含まれるかもしれません。思いつきですが、コマ撮り撮影ではなく、一人ひとりがYouTuberになりきって10分程度の番組をつくるという形でも、面白いかもしれません(そうすると、静止画撮りではなく動画のカメラワークの仕組みを学びます)。もちろん、動画をネット上にアップすることはできませんが、自分で考えて撮影し、編集をすることで、YouTuberがどれだけ高度な技術に投資をしているのか、将来YouTuberになるためにはどのくらいの努力が必要なのかということを想像することができます。

単に動画を見て真似をしているだけでは再生回数は伸びませんから、人が思いつかないようなアイデアが必要です。そのためにはたくさんの知識と経験と想像力、そしてモラルが必要であること、それはネットだけでは身につかないものであることを伝えることもできるのです。

子どもとネット依存の問題はまた次の機会にと思いますが、日常的にタブレットを使うということは、子どもたちの日常と直結した指導をタイミングよく行うことができるという利点があると思います。

この記事を書いたひと

吉田 理子
(よしだ りこ)

1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。

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