令和6年度から使用の各教科の教科書に変化、プログラミング教育の現状
文部科学省の主導により、小学校において令和2年からプログラミング教育が必修化されています。
「プログラミング教育」と聞くと、プログラミング言語を使いこなしたり、ITスキルを身に付けたりするための勉強をイメージしてしまいがちですが、文部科学省がいうプログラミング教育とは、「プログラミング的思考を養う」ことを目的としています。
文部科学省は、「プログラミング教育」の主な目的を次の3つとしています。
- プログラミング的思考を育むこと
- コンピュータに支えられている社会であることに気づくこと
- 各教科等での学びをより確実なものとすること
なお、小学校や中学校で行われているプログラミング教育は、「プログラミング」という教科が新たに設けられたわけではなく、既存の科目にプログラミング要素を取り入れる形で学んでいます。
教科書内の「プログラミング」関連用語の割合
鳴門教育大学が、プログラミング教育が始まった令和2年に、同年6月時点で出版済みの小学校の教科書を対象に「小学校プログラミング教育に関する教科書分析」を報告しています。
このときに調査した教科書合計40,936ページのうち、プログラミングまたは、プログラミング学習に関連することが記載されたページ数は合計74ページで、全体のわずか0.18%に過ぎませんでした。
教科別に見てみると、全学年を通じて算数では「プログラミング」またはそれに関連する内容が記載されていました。また、国語・社会・理科・外国語・家庭のいずれかの教科で、わずかにプログラミングに関連する内容に触れていることが分かります。
なお、このなかで実際にプログラムを作成する段階まで記載されていたのは算数と理科のみだと報告されています。
一方、令和6年度から使用される教科書では、プログラミングやプログラミング的思考に関する記述が大幅に増えています。
学習内容と関わりが深い算数や理科だけではなく、国語、図画工作、家庭、英語などにもプログラミングに関する記載が増加しています。たとえば国語の教科書でプログラマーが書いた文章を掲載。また、実際のプログラミングにも応用できるようプログラミング的思考についての資料を巻末に載せた教科書もあります。
教員のICT活用指導力、前年度より微増
教科書の内容が充実していく一方で、教員のICT活用指導力はどうなっているのでしょうか。
文部科学省は、ICT活用指導力について、主に次のような調査を行っています。
- 教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力
- 授業中にICTを活用して指導する能力
- 児童生徒のICT活用を指導する能力
- 情報モラルなどを指導する能力
- 校務にICTを活用する能力
令和4年度に行った調査では、いずれの項目においても令和3年度と比較してICT指導力の向上が見られます。
プログラミング教育は「プログラミング」という教科が増えたわけではないと前述しましたが、文部科学省は教育内容を各校に一任しています。そのため、学校、あるいは指導する教員によって取り組みに差が生じています。
教員のICT活用指導力を向上させるために、各校で必要に応じて外部の講師を招いたワークショップや研修を実施。各教科等の研修だけではなく、情報モラル指導の研修なども行っています。
ただ、研修の受講状況にも、都道府県によって差があるのが現状です。
文部科学省の調査によると、令和4年度中にICT活用指導力の各項目に関する研修を受講した教師の割合は全国平均で73%。都道府県別に見ると59%~95%の受講率となっていて、約半数の都道府県が平均に届いていません。
プログラミング教育の現状は?
文部科学省が全国の公立の小学校1235校を対象に行った「令和4年度 公立小・中学校における教育課程の編成・実施状況」によると、プログラミング学習指導の実施時数は小学校5年生で平均5.8時間、6年生で6.7時間となっています。
10回以上プログラミング学習を行っている小学校が5年生で17.7%、6年生で21.5%ある一方で、1回も行っていない学校が5年生で4.8%、6年生で1.5%あります。つまり、調査対象校から計算すると約60校の学校で小学5年生におけるプログラミング学習が行われていないということです。
では、プログラミング学習を行っている学校では、どの教科で指導が行われているのでしょうか。
この調査で複数回答可能な調査を行ったところ、5年生で最も多いのは算数(75.8%)、6年生でもっとも多いのは理科(74.2%)となっており、そのほかに両学年とも総合(41%)でプログラミング学習が行われている割合が多いことが分かりました。
また、国語、社会、音楽、図画工作、家庭、体育、外国語の時間でもプログラミング学習が行われています。
プログラミング教育の今後の課題
プログラミング教育が始まった直後、課題として次のようなものが挙げられていました。
- 教員の専門性不足
- 教材・資料不足
- リテラシー教育
- セキュリティ
これらの課題が現在も残りつつ、そのほかに子どもたちの集中力欠如が問題として挙がっています。学習に使うタブレットに触れること自体を楽しんでしまい、本来の目的がおろそかになっていると推測されます。
また、プログラミング教育は、科目として増えたわけではなく既存の教科にプログラミング要素を取り入れる形で行われているため、授業の展開を考えたり、教材の選別・作成したりする必要があるなど教員の負担が課題となっています。
さいごに
令和2年にプログラミング教育が必修化されてから3年が経過しましたが、学校によって取り組み方に差が生じていることがわかりました。
また、文部科学省の調査によると、令和4年度中にICT活用指導力の各項目に関する研修を受講した教師の割合は全国平均で73%。都道府県別に見ると59%~95%の受講率となっています。つまり、教員のICT活用指導力にも差が生じているということです。
プログラミング教育の取り組み方や指導力に差が生じているなか、令和6年度から使われる教科書では、プログラミング教育に関するワードが増えていることが分かっています。
koedoでは、プログラミング教育が今後、どのように変化していくのか定点観測を続けていこうと考えています。
(koedo事業部)
【参考】
- 小学校プログラミング教育に関する教科書分析/鳴門教育大学情報教育ジャーナル
- 令和4年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要) (令和5年3月1日現在) /文部科学省
- 小学校からプログラミング的思考を重視、来春からの教科書、記述倍増/朝日新聞デジタル
- 教員のICT活用指導力の向上/文部科学省
- 令和4年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実地状況調査 調査結果/文部科学省