【不登校という選択】「学びの多様化学校」の入学条件、フリースクールとの違いとは?
文部科学省の調査によると、令和4年度の不登校児童生徒数は小学生・中学生を合わせて約30万人、高等学校を合わせると約36万人にのぼり過去最高となっています。
また、小学校・中学校における不登校児童生徒のうち、約4割が学校内外の専門機関等で相談・指導等を受けていません。
この事態を受け、令和5年3月、文部科学省は「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」をまとめるとともに、不登校児童生徒の学びの機会を確保するために、各都道府県および政令指定都市に1校以上の「学びの多様化学校(不登校特例校)」を設置するべく計画を進めています。将来的には、学びの多様化学校への通学を希望する児童生徒が、住んでいる地域に関係なく通えるように、分教室型も含めて全国で300校の設置を目指しています。
学びの多様化学校とは
「学びの多様化学校」は、もともと不登校特例校と呼ばれていたことからもわかるように、不登校児童生徒の実態に配慮し、学習指導要領にない教科を新設したり、ある教科を削減して削減分を別の教科に補填したりするなど、特別な教育を行う学校です。
令和6年9月現在、学びの多様化学校は全国に35校(公立21校、私立14校)設置されていて、このほかに設置を検討している市町村が数百カ所あります。公立の場合は無料ですが、私立の場合は学費を払う必要があります。文部科学省の調査によると中学校の授業料が平均568,400円、高等学校の授業料が平均520,400円となっています。このほかに入学金や設備費等を払う必要があります。
対象となる児童生徒
文部科学省は、「不登校」を次のように定義しています。
「病気」「経済的理由」「不登校」の理由により登校しなかった日数の合計が30日に満たず,学校教育法又は学校保健安全法に基づく出席停止,学年の一部の休業,忌引き等の日数を加えることによって,登校しなかった日数が30日以上となる
児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査-用語の解説
そのうえで、学びの多様化学校の利用対象を次のように説明しています。
児童生徒について,不登校状態であるか否かは,小学校又は中学校における不登校児童生徒に関する文部科学省の調査で示された年間30日以上の欠席という定義が一つの参考となり得ると考えられるが,その判断は小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校(以下「小学校等」という)又はその管理機関が行うこととし,例えば,断続的な不登校や不登校の傾向が見られる児童生徒も対象となり得るものであること。他方,不登校児童生徒以外の児童生徒については,特別の教育課程の対象にはなり得ないこと。
不登校児童生徒の実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校の概要
つまり、文部科学省は、入学対象となる児童生徒の範囲を不登校状態である児童生徒および、不登校傾向がみられる児童生徒としたうえで、次のように述べています。
- 児童生徒が不登校かどうかの基準は、年間30日以上の欠席をしているかどうかが判断基準のひとつとなる
- 不登校がどうかは、各学校または管理機関が行うこと
- 不登校児童生徒以外は、学びの多様化学校の対象にならないこと
なお、「不登校傾向がみられる児童生徒」とは、次のような児童生徒です。
- 登校はできるが保健室や相談室で特定の教職員や友だちとしか関わることができない児童生徒
- 学校に登校できず、教育支援センターやフリースクール等に通っている児童生徒
在籍児童生徒数の推移
文部科学省の調査によると、「学びの多様化学校」の数が増えるとともに在籍児童生徒数も増えています。ただ、不登校児童生徒数が約30万人であることを考えると、学びの多様化学校に通っている生徒児童がまだまだほんの一部だということが分かります。
学びの多様化学校のカリキュラム
学びの多様化学校では、一般的な学校とは異なり、学年を超えたクラス編成をしていたり、習熟度別にクラス編成をしていたりするなど、柔軟にクラス編成が行われています。
また、年間の授業時数を規定よりも少なめに設定し、代わりに一人ひとりの状況に合わせた学び直しの時間として活用したり、教科にとらわれない個々の関心・意欲に応じた体験的な授業を実施したりしています。
小学校(平均) | 標準授業時数 | 中学校(平均) | 標準授業時数 | |
---|---|---|---|---|
1年 | 782.0時間 | (850時間) | 894.7時間 | (1015時間) |
2年 | 813.8時間 | (910時間) | 900.0時間 | (1015時間) |
3年 | 848.8時間 | (980時間) | 903.6時間 | (1015時間) |
4年 | 836.8時間 | (1015時間) | ||
5年 | 836.8時間 | (1015時間) | ||
6年 | 836.8時間 | (1015時間) |
そのほか、学校によって不登校児童生徒に配慮して次のような工夫がなされています。
- ラッシュ時間や地元学校の登校時間と重ならないよう登校時刻を設定
- 生徒自身が学習内容や学習場所を選択できるなど、個別最適化を図る学びの実施
- 生徒一人ひとりの状況に合わせた支援を全職員で実施
- 常時オンライン授業配信を行い、登校できなくても学びを続けられるような環境を整備
- 集団に入りづらいときに使用できる個別スペースを用意
フリースクールとの違い
学びの多様化学校もフリースクールも、不登校児童生徒の受け皿となっている点では同じですが、異なる点もあります。
まず、学びの多様化学校は、現在在籍している学校から転校(編入)できる点が大きく違います。フリースクールは、法律上の学校ではないため、通常は学校に在籍しながらフリースクールに通うことになります。一方、学びの多様化学校は文部科学大臣に指定された学校のため、転校手続きを経たうえで通うことになります。
文部科学大臣に指定された学校ということは、学びの多様化学校に通っていれば当然のように「出席扱い」となり、卒業も認められます。一方フリースクールは、必ずしも出席扱いになるとは限りません。令和元年に文部科学省によって「一定の条件を満たす場合には出席扱いにできる」と通知が出されていますが、その判断は各学校や教育委員会に任されているからです。
今後の取り組み
文部科学省が打ち出している「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策 (COCOLOプラン)」では、不登校により学びにアクセスできない子どもたちをゼロにすることを目指し、次の3つのプランを取りまとめています。
- 不登校児童生徒全員が、学びたいと思ったときに学べる環境を整える
- 心の小さなSOSを見逃さない
- 学校の風土の「見える化」通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする
このプランを実現するためには、行政が学校を支援したり、NPOやフリースクール等と行政が連携したり、学びの多様化学校とフリースクールの間で人事交流等を行ったりするなど、関係者がお互い協力しながら児童生徒一人ひとりの状況に応じた支援策を講じることが必要となってきます。
さいごに
学びの多様化学校は、令和5年までは不登校特例校と呼ばれていました。令和6年9月時点で、全国に35校が設置されていますが、文部科学省は各都道府県・政令指定都市に1校以上設置するべく計画を進めていて、将来的には、全国で300校の設置を目指しています。
不登校児童生徒数は10年連続増加していて、小学生は10年前の約5倍、中学生は2倍に増加しています。学びの多様化学校が順調にその数を増やしていくことで、不登校に悩む子どもの選択肢が増えることにつながります。
koedoでは、今後も不登校に関する対策等の定点観測を続けていこうと考えています。
【参考】