あらためて「GIGAスクール構想」とは ―平成31年度現在の状況と実現に向けての課題―

2020年2月27日、政府は新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために、全国の小中高等学校に対して3月1日以降は臨時休校するように要請を出しました。

それに先立つ2019年12月に、政府は「GIGAスクール構想」を打ち出していましたが、このコロナ禍における休校措置には、とうてい間に合っておらず、どの学校においても学習の遅れが心配されました。

文部科学省によると、GIGAスクール構想とは次のようなことを指しています。

  • 児童生徒に1人1台の端末を用意すること。
  • 端末を使うにあたり必要な通信環境を整備すること
  • 特別な支援が必要な子どもを含め、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、一人ひとりに最も適した方法で、子どもの資質や能力を育成できる環境を全国の学校現場で持続的に実現すること。

GIGAとは、「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「すべての子どもたちにグローバルで革新的な道への扉を」というような意味になります。

コロナ禍における全国のICT環境の整備状況

コロナ禍における休校要請が出た当時、全国のICT環境の整備状況はどのようなものだったのでしょうか?

平成30円ン度現在コンピュータ1台あたりの児童生徒数

文部科学省による平成31年3月1日現在の調査では、教育用端末1台あたりの児童生徒数は平均で5.4人となっています。

最も進んでいたのが佐賀県の1.9人/台、最も遅れているのは愛知県で7.5人/台となっており、地域間での整備状況の格差が大きいことがわかります。

先端技術を効果的に活用した学びとは

政府が進めている「先端技術を効果的に活用した学び」とは、どのようなものなのでしょうか?

いままでの教育では、教師が黒板などを用いて説明し、児童生徒全員が同時に同じ内容を学習するという環境でした。この環境では、一人ひとりの理解度に応じた学びは困難で、いわゆる「落ちこぼれ」の児童生徒に対しては、フォローするのが難しいのが現実となっています。

また、自ら発言する児童生徒は限られているため、教師は一人ひとりがどこまで理解しているのかを判断するのが困難な状況でした。

では、政府が主導となって推し進めている「GIGAスクール構想」が実現した場合は、授業風景はどのように変わるのでしょうか?

まず、端末を1人1台ずつ配布することにより、教師は授業中でも一人ひとりの反応を踏まえ、双方向型の授業が可能になるとされています。

また、児童生徒一人ひとりが同時に別々の内容を学習することができるようになり、その子どもの学習状況に応じた個別学習が可能になります。

そして、一人ひとりの考えをお互いにリアルタイムで共有できるようになるため、子ども同士での意見交換もできるようになるとされています。

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なお、政府が考えている「ICTを活用した学び」には、次のようなものが挙げられます。

  • 課題や目的に応じ、児童生徒一人ひとりがインターネット等を用いて情報を収集・整理・分析できるようになる。
  • 写真・音声・動画等を使った資料・作品を制作できるようになる。
  • 大学や専門家と連携することで、過疎地や離島に暮らす子どもたちに対して、多様な考えに触れる機会を与えることができるようになる。
  • 病院と教室をつなぐことで、入院中の子どもが学校での授業に参加できるようになる。
  • 情報を収集したり、発信したりする機会が増えることで、情報モラルを意識する機会が増えるため、情報モラルについて教育ができる。

教育現場でICT環境を基盤とした先端技術

平成31年度現在の学校をめぐる通信環境

「令和2年情報通信白書」によると、世帯におけるパソコンの保有率は69.1%、タブレットの保有率は37.4%、スマートフォンの保有率は83.4%となっています。

その一方で、学校における無線LANの整備率は90%近くまで達しているものの、校内LANの整備は41%と通信ネットワーク環境が脆弱で、ICT環境の整備も追いついていません。

平成31年度現在普通教室のLAN整備率およびインターネット接続率

つまり、家庭ではパソコン等の端末さえあればオンラインでの学習環境が整っていたとしても、学校内で端末を使用しての学習は、まだ難しい状況であることがわかります。

すでに校内LANが整備されている学校でも、同時に大勢の児童生徒がWi-Fiに接続でき、さらに動画を用いた授業や遠隔授業ができるだけの安定した通信環境を提供できなければ意味がありません。

補助金

これに対し政府は、校内LANの整備および電源キャビネットの整備に向けて、希望するすべての小中高等学校に対して諸経費の2分の1を負担。

さらに一部地方交付税を充てることにより、自治体の負担が少なくて済むよう、全国一律の整備に取り組むこととしています。

また、児童生徒1人1台端末の整備のために、上限4万5千円の定額補助が行われることになっています。

クラウドを活用することによる安全で効率的なICT環境の整備

GIGAスクール構想により整備される児童生徒向けの端末は、クラウドを活用することが前提となっています。

学習のためのクラウドの活用としては、ワープロや表計算、プレゼンテーション等の学習用ツールをクラウド上で管理することが推奨されています。

また、校務においては児童生徒の名簿・出欠・成績などの情報や、教師の出退勤管理をクラウド上で管理することで業務の効率化を図り、教師の負担を軽減することを目指しています。

さらに、校務をクラウド化することにより、教師の業務の一部をテレワークで行うことが可能になります。

今後の課題

児童生徒に対し1人1台の端末をそろえ、校内のネットワーク環境を整えれば終了というわけにはいきません。

それは、言わばICT機器を利用した学習をするための準備が整っただけに過ぎないからです。整備を整えたあとの課題には、どのようなものがあるのでしょうか。

まず、今後の課題として、教師のあり方や果たすべき役割、ICT機器を利用した授業のやり方に対する理解などを深める必要があります。

さらにデジタルならではの環境を充実させなければいけません。たとえばデジタル教科書や教材の活用、AIドリルなどを利用した学習環境を整える必要があります。

また、教師のみならず、家庭と学校をつなぐオンライン授業を行うのであれば、保護者もICT機器の扱いやセキュリティに関する知識等を深める必要があります。

ワードやエクセルなどに対する一般的な知識や経験を持ち合わせていたとしても、セキュリティやネットワーク管理といった知識を持ち合わせている保護者は多いとは言えないからです。 そのために、政府は指導体制を整えることも進めています。たとえば、ICT活用教育アドバイザーによる説明会やワークショップの開催、専門企業の人材によるICT支援員の活用などがそれにあたります。

まとめ

「GIGAスクール構想」は当初、2023年の達成を目標としていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により計画を前倒し、2021年3月末までに進めることとなりました。

koedoでは今後も、GIGAスクール構想がどのように進んでいくのか、またICT機器を利用した学習がどのように行われていくかなど、「教育現場におけるIT化」を追っていきたいと考えています。

■参考

koedo事業部