ぐるっと回って対面希望! コロナ禍の保護者と子供たちの本音
夏休みは終われども、まだまだ暑い8月の終わり。私が住んでいる地域は新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた。生徒のクラスでも感染者が出て濃厚接触者になってしまったり、家族が感染して学校や塾に来られない生徒が多くいた。いよいよ身近に迫ってきたなと思っていた矢先、塾でも陽性者が出てしまった。家族間での感染とのことだった。幸いにも私は濃厚接触者にならず、塾は通常通り授業を行うことができた。
しかし、いつ私自身が濃厚接触者や感染者になってもおかしくない状況だった。私自身は健康でも、濃厚接触者になってしまうと授業はできない。そんな危機感が日に日に強くなっていった。
そこで万が一の事態に備えて、塾に通う保護者全員を対象としたオンラインに関するアンケートを取ることにした。昨年春から学校でもオンライン授業を受けている子供を持つ保護者なので、オンラインに対する抵抗はないと思っていたのだが、結果を見ると消極的な意見が多かった。オンライン授業に対する親の本音がそこにはあった。
アンケート実施後、「状況が許す限り対面授業でお願いします」「うちは、オンライン困ります!」という電話も多くかかってきた。その理由の多くは、家では切り替えができず勉強にならない。その代わりに親子喧嘩が始まるから。確かに、喧嘩は困る。
塾に来るメリットの1つは、場所が変わることで気持ちを切り替えられることだ。オンライン学習となると受講場所や環境が変わらないため、学習への意欲が湧きにくい。学習に対する意欲が高い生徒はオンラインであれ何であれ学ぶことができるが、「家では勉強しません。だから塾に行っています」という姿勢の生徒では難しいのが現実。大人の私でも、家より事務所の方がやっぱり仕事は進む。そりゃそうだ。気持ちはよくわかる。
親だけでなく子供たちからもアンケート実施後、「オンライン、嫌だ。塾に行ってもいい?」と聞かれた。子供たちにも対面で授業を受けたい気持ちが強いようだった。昨年春から今年の夏にかけて学校でオンライン授業を受けても、「授業がよくわからなかった」と子供たちは言う。小学生は成績にもそれが顕著に現れた。
地域の小学校はしばらくの間、学校に来て授業を受けても良いしオンラインで受けても良いという選択制になっていたが、オンラインで授業を受けていた生徒の成績はかなり落ちたように思う。オンライン選択可能な期間の単元はまったくわかっておらず、塾でイチから基礎を作り直すという状態だった。これが5教科すべてで必要なので、子供たちの学力低下はひどいものだった。
話を聞くと、授業の音は消してYouTubeを見たりお絵かきしたり……といろいろ。時には先生がオンラインに入れるのを忘れて、授業がまるっと抜けてしまうこともあったそうだ。共働きの家が多いので、子供たちが授業を受けている姿を見届けることもできず、保護者はもどかしい思いをしていたようだった。それが「せめて塾は対面で授業をして欲しい」との強い願いにつながったのだと思う。
去年の春に学校が休校となり、私の塾でもオンライン授業に切り替えたころ、オンライン授業をして欲しいという要望はかなり強く、その要望に応えながら試行錯誤してきた。しかし、子供も親もひと通りのオンライン授業・リモート授業を受けてきた結果、対面の良さを再確認した感がある。
大人の私からすると、塾にはわざわざ自転車をこいで来る必要がある上、寒いときはつらいだろうし雨の日はもっとつらいだろうから、移動しなくていいオンライン授業の方が嬉しいだろうに……と思っていたが、雨に濡れようと暑かろう寒かろうと、子供たちは「塾に来たい」と言ってやってくるのだ。
実際に毎週土曜日に行っているライブ授業を「塾でリアルに受けて良いよ!」と試しに言ってみた。すると土曜の夕方にも関わらず、ほとんどの生徒が塾に授業を受けに来た。本当に不思議な光景で、保護者からも「塾でライブ受けられて良かったです」とお礼のメールが来たほど。保護者も土曜日の夕方、仕事が休みで一番ゆっくりしたい時間帯に子供が家でオンライン授業を受けていたら、いらぬ気を遣うのかもしれない。
配信する側は「オンラインであれば場所を選ばずに授業を受けられるのがメリット」と思っていても、実は受け手の方が「やっぱりアナログが一番!」と思っているのかもしれない……と考えさせられる結果だった。
この記事を書いたひと
松本 正美
(まつもと まさみ)
「学ぶ力は、夢を叶える力!」松島修楽館代表。中学3年生の時に「将来は塾の先生になる!」と決意し、大学1年生から大手個別指導塾で教務に就く。卒業後、そのまま室長として10年間勤務。その後、新興のインターネット予備校で生徒サポートの仕事に携わった後、2013年に松島修楽館を開業。単なるテストのための勉強だけではなく、「どんな夢でも、正しい努力によって叶えることができる」ということを子供たちに伝えるため、根本的な「学ぶ力」を育むことを重視した指導を行っている。2人の高校生の母。趣味はサックス、タップダンス。