コロナ禍における小兵塾あれこれ 小回りが利くからできたこと【その1】

2021年1月23日

 今年3月、今まで経験をしたこともない「学校の一斉休校」という事態が起きた。

 私もそこそこ年を取り40数年生きているが、全国の一斉休校は生まれて初めてのことだった。もちろん、私が塾業界に入ってからも初めてのこと。

 一斉休校も慌てる事態ではあるが、3月中にある公立高校は一体どうなるのか? どこにも答えがなく、誰も答えを知らない。“ナイナイ状態”ですべては始まった。

 まずはすぐにできることとして、学校が休校の間は塾の開講を10時から15時に変更。近隣では新型コロナウイルス感染症の感染者は発表されていなかったので、問題はないと判断した。

 子供たちが遊びたいゴールデンタイムを拘束することで、子供たちがショッピングモールや町中でうろうろするのを阻止! 私の目の届くところで過ごしてもらう。

 お母さんを安心させるため、その旨をすぐに一斉にメールで伝えた。家庭ではお母さんは絶対的な存在ゆえに、お母さんが不安にしていると子供たちが不安になるからだ。お母さんに安心してもらうのが最優先の仕事である。

 学校の休校に際し、母親として一番不安なことは、日中の子供の様子がわからないことだ。次に、勉強。自分がいない間に子供たちがどんなことをしているのか見えないことが、母親としては一番の心配だ。それは私が母親であるからこそわかる。我が家の子供たちは両方高校生であるが、心配は同じ。得体の知れないウイルスではあるが、親は仕事を休めない。子供は家にいておそらく何もしない。きっとスマホで動画見たい放題、やりたい放題。それを塾が見守ってくれるならばと、かなり不安は払拭できたようだ。

 その日のうちに対応できるのは、個人塾ならではの柔軟さである。そんな中、中学生の子供を持つ友達の一人からメールが来た。「うちの子供の塾、塾に行ったら入口に『今日からしばらく休みます』と張り紙があった!」と。

 塾に行った本人もビックリしただろうが、今の時代に張り紙って……。親もビックリ! 大手塾になればなるほど、上の意見を聞いたり世間の流れを見たりと、大人の事情が複雑だったのだろう。個人塾には、それがない。

 朝10時から15時まで子供たちは塾に来て勉強をしたが、みんな本当によく勉強した。今まで勉強が得意でなかった生徒は、できないところまでさかのぼって復習。学校の授業が止まっているので、どれだけでもさかのぼって復習をしてあげることができた。

 今まで、自分は勉強なんてできないという思いが強かった子供たちに、少しずつ「できる!かも……わかるようになったかも……」という気持ちが芽生えてきた。

 今までわからない上に日々の授業が進み、テストもある。そのうえ部活も行事もあって思い切った復習ができない現状があった。戻り学習が必要なことはわかっていても、現実問題としてそれは難しい。勉強ができない生徒の多くが小学生の段階や中学生のかなり初期の段階でつまずいている。そこを丁寧にゆっくり戻って学習する時間は、残念ながら今の学校の教育にはない。

 学校が休校になったことで、子供たちは自分の勉強のあり方に向き合うようになった。暗記が苦手で今まで向き合えなかった子も毎日暗記をするようになり、覚えることができた!という達成感を味わった。

 数学の計算ができなかった子は小学生の算数に戻ることで、中学校の計算が正確にできるようになり、先取り勉強ができるようになった。学校では置いてけぼりだった自分が先取りをしていることが、子供たちの自信につながった。

 その様子は毎日一人ひとりの保護者にメールで報告をする。塾での様子を伝えることで安心感を持ってもらえたようだ。

 実際に生徒の保護者からも『他の塾が閉まっている中、先生が塾を開けてくれて誇りにすら思いました!』と喜びの声も届いた。そして「子供たちの居場所project」の協賛塾として、塾生だけでなく近隣の子供たちにも塾を開放し、学習サポートを行った。今こそ地域に育ててもらった恩返し!というわけである。

 その試みはテレビ、新聞などでも取り上げられ、反響は大きかった。

 当面の間は安全に配慮しながら、対面で塾を開けるが、感染者が増えるとそうはいかない。水面下で完全オンラインに向けて奮闘する日々が始まった。


この記事を書いたひと

松本 正美
(まつもと まさみ)

「学ぶ力は、夢を叶える力!」松島修楽館代表。中学3年生の時に「将来は塾の先生になる!」と決意し、大学1年生から大手個別指導塾で教務に就く。卒業後、そのまま室長として10年間勤務。その後、新興のインターネット予備校で生徒サポートの仕事に携わった後、2013年に松島修楽館を開業。単なるテストのための勉強だけではなく、「どんな夢でも、正しい努力によって叶えることができる」ということを子どもたちに伝えるため、根本的な「学ぶ力」を育むことを重視した指導を行っている。2人の高校生の母。趣味はサックス、タップダンス。