学校の手紙から考える――担任の先生と良好な関係を築くには?

2021年1月15日

「うちの子、学校からプリントや大事な手紙を持って帰ってこない」
「あれ、同じ手紙が2枚入っていて、配布されるはずの手紙がない」

 そんな経験をしたことはありませんか?
 うちの子はしっかりしていないから……
 今年の担任は全然見届けてくれないから……

 そうやっていろいろな思いが湧いてくるだけでなく、同じようなことが続くと、手紙をきっかけに子どもを叱ることになったり、先生や学校への不信感を生み出したりします。

 これが保育園や幼稚園であれば、連絡帳やお迎えを通して子どもの様子が見えたのに、小学校に上がると途端に学校での姿が見えなくなりがちです。子どもの声を通してしか、担任の先生がどんな人かもわからないものですよね。

 ですから小学校の手紙というのは、学校と家庭の信頼関係を作るとても大事な役割を果たしているのです。

 それゆえに家庭で待っている親としては、

「なんで大事な手紙もらってこないの!」

こんなふうに叱りたくなるでしょう。ですが、子どもを叱るのはNGです。

 子どもは叱られても、なんのことかとピンとこないことが多いものです。そもそも子どもは、学校からの手紙が重要であるとは認識していません。

 よく考えてみてほしいのです。手紙が重要だと感じているのは誰でしょうか。そう、親ですよね。手紙は親にとって重要であって、子どもにとっては重要ではないのです。

 ここで「あれ?」「おかしいな?」と、感じていただきたいのです。

 親にとって重要な手紙や書類を、その手紙の重要性をあまり認識できていない、発達途上の子どもに託している――というやりとりの構造を。

 実は、子どもを責めること自体、おかしな話なのです。書類を子どもの手を通して提出したり、手紙を持って帰ってきたりすることは、従来から当たりまえであるかのように行われていますが、実は、まったく当たりまえのことではありません。

 では、子どものせいじゃなければ、誰のせいなのでしょうか。

 確実に渡してくれなかった先生のせい? 先生が見届けてくれていないから、子どもが持って帰ってこないのでしょうか?

 それもひとつ、あるかもしれません。

 ですが、それ以前に、その手紙が親御さんの手元に届くまでには、果てしない道のりがあることを知っていただきたいのです。

 ここで、「1枚の手紙が子どもの親の手に渡るまで」のストーリーを一緒にみていきましょう。

 例えば、学級通信を例に取ってみます。学級通信には、学級の様子、来週のスケジュールや持ち物などが書かれていることが多いですね。購入すべきものがある場合、前もって親が確認しておきたい内容が書かれています。

 一般的に、担任の先生が作成した学級通信は、管理職のチェックを受けて、人数分印刷します。印刷されると、職員室や印刷室の近くにある、いわゆる「手紙ボックス」に一時保管。ここに保管された手紙は、クラスにいる手紙当番や手紙係などの子どもの手によって、教室まで輸送されます。

 教室まで輸送された手紙は、先生もしくは子どもの手によって配布されます。この列は4人だから4枚、この列は5人だから5枚といった具合に、最前列の子どもにその列の枚数分が手渡されます。

 そして最前列の子どもは、自分の手紙を取ったら「はい、どうぞ」と言って、一列後ろの友達に残りの枚数を手渡します。後ろの友達は、「ありがとう」と言って受け取ります。同じようにこの手渡しリレーが続き、残り1枚の学級通信が最後列の子どもに行き渡るのです。

 おわかりでしょうか。子どもの手に渡るまでに、実に数多くのハードルが潜んでいます。

 手紙ボックスから手紙を1枚も落とさずに、階段を上り下りして教室まで運べているか? 列の人数分、手紙を配っているか? 1列目の子どもが後ろの子どもに手紙を回しているか? 回すだけではなく、自分用の手紙を確実に取っているか?

 手渡しリレーがスムーズにいくとは限りません。欠席の子や、まだ教室に戻ってきていない子がいたり、扇風機や窓からの風で、手紙が飛んでしまったりすることも日常茶飯事です。手紙を確実に連絡帳袋に入れたとしても、それを学校に置いてきてしまうことだってあります。

 このように、いくつもの険しい道のりを乗り越えて、家に持って帰ってくるのです。手紙が親の手元に届くのは、実は当たり前ではないのです。「奇跡に近い」と言ってもいいでしょう。

 手紙は、学校と家庭とをつなぐ大事なツールです。この大事な手紙を一生懸命運んでいるのは、毎日を全力で生きる子どもたち。

 この事実を、まずもって受け止めていただきたいのです。

 年度初めには、家庭調査票や保健調査票、災害時引き渡しカードなど、書類がどっさりありますから、持って帰ってきてくれないと提出ができないですよね。提出期限が過ぎてからもって帰ってくる、なんていうご経験がある方もいるでしょう。

 ではこのやりとりを、もし子どもではなく、親が直接受け取れるようになったら?

 スマホを見れば、学校からの大事な手紙をいつでもどこでも確認できる。提出すべきものや保護者会の出欠を、スマホからワンクリックで送信できる。未提出のものがあると、自動でお知らせが届く。

 教育のICT化が進むことで、そこにある未来は誰もがゆとりをもっている映像が浮かびますよね。

「手紙をもらってきていない!」と、子どもを叱ることもなくなります。手紙を確実に渡さない先生に、不信感を抱くこともなくなります。

 紙やインク代など、限りある資源の節約になります。先生が印刷する手間がなくなります。

 子どもが手紙を回す時間がなくなります。もらったもらわないのトラブルがなくなります。

 同じ学校に通っているのに、学校と家庭をつなぐツールが“紙”であることによって、実は情報格差が生まれてしまっているのです。その情報格差が、担任の先生との信頼関係を遠ざけてしまうきっかけにもなりえます。

 学校における“紙の文化”は思いのほか根深く、今すぐ解決には向かわない問題です。

 では、今の状況下で、担任の先生と信頼関係を構築するためにできることはなんでしょうか。

 それは、子どもの事情、先生の事情、学校の事情を理解することです。誰かのせいにするのではなく、学校の忙しい1日を想像してみる。それだけで、子どもは理解してもらえたと感じます。先生も救われたと感じます。

 手紙が届かないこともあるよね。もらってこないこともあるよね。そんな心の余裕があるだけで、子どもとの間にゆとりが生まれるだけでなく、担任の先生との距離がぐっと縮まります。

 子どもをしっかりさせなくちゃ! 先生に理解してもらわなくちゃ! そうやって必死になる前に、まずは自分から理解しよう、相手を知ろうとする心が大切。

 学校や担任の先生との信頼関係を育む最大の秘訣は、相手の状況を理解しようとする姿勢なのです。

 子どもが持って帰ってきた手紙のストーリーを、子どもの口から聞いてみるのもいいかもしれませんね。クラスの状況、先生や学校の状況を、今よりもずっと理解しやすくなりますよ。

この記事を書いたひと

外山 千香子
(とやま ちかこ)

教員向けのクリアマインドコーチ。元小学校教員。現在は、子どもに教える先生に自分の心の整え方や、信頼につながるコミュニケーションプログラムを提供している。全国各地から先生が集まり、これまでに述べ100人以上にレッスンや個人セッションを実施。「職場でイライラしなくなりました!」「疲れを感じることが減りました!」「毎日幸せです!」など、次々と自分の理想を現実に変える先生を増やしている。著書にAmazonランキングで第1位を獲得した『子どもに教えるのに悩んだときに読む本 ~元教師が教える子どもの心とつながれるリスニング技術~』がある。