【STEAM教育と特別展「宝石」④】宝石ってどこで採れるの?
2022年6月19日まで、東京・上野の国立科学博物館で特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」が開催されています。
【STEAM教育と特別展「宝石」②】で、宝石の原石がどこで、どのようにできるのかを調べたなかで、「では、宝石はどこで採れるの」という疑問に至りました。
実際に、宝石の原石はどこで採れるのでしょうか?
宝石の原石は噴火や地殻運動などで地表近くへ運ばれてきた母岩を含む地層である「一次鉱床」、地表へと出てきた母岩が雨や風で運ばれて川底や海底に堆積し地層である「二次鉱床」から採掘されます。
母岩とは、宝石の原石を含む岩石のことを言います。
たとえばキンバーライト、大理石、玄武岩、変成岩、堆積岩、ペグマタイト、タルクマグネタイトなどのことです。
では、宝石が採れる場所についてもう少し詳しく触れていきましょう。
宝石が採掘される国は?
現在、「宝石」と呼ばれる鉱物は200種類以上確認されています。
鉱物 | 世界で5000種類以上 | 地中で自然にできる物質のこと |
宝石 | 現在確認されているのは200種類以上 | 鉱物のうち磨くと輝くもの |
鉱石 | 鉄、金、銀、銅 etc. | 鉱物のうち人の生活に役立っているもの |
その数多くある宝石のうち、ダイヤモンド・ルビー・エメラルドの3つの宝石の採掘場所はどこにあって、どのような特徴があるのでしょうか。
〇ダイヤモンド
母岩 | キンバーライト(火成岩の一種) |
採掘の歴史 | 紀元前7世紀から8世紀ごろ、インドの田舎の河川で初めて発見。その後1728年ごろにブラジルで発掘がはじまり、19世紀中ごろには南アフリカでも発掘が始まる。 |
現在の産地 | ロシア、ボツワナ、カナダ、アンゴラetc. |
〇ルビー
ルビーは産出国によって、宝石の原石を含んでいる岩石が違うなど、それぞれ異なった特徴をもっています。
産出国 | 母岩 | 採掘の歴史 | 特徴 |
ミャンマー産 | 大理石 | 15世紀以降、ルビーの主要な産出国となる。 | 不純物が少ない。 強い蛍光性を持つ 強い赤色 |
ベトナム産 | 大理石 | 1990年代に発掘を開始 | 薄い赤色から濃い赤色まで多様なルビーが発掘されている。 |
タイ | 玄武岩 | 1960年代後半に発掘開始。 | 暗みのある赤色 |
モザンビーク | 変成岩 | 2009年に河川の砂礫層に大量のルビーを発見。 | ややオレンジとパープルを帯びた赤色。 蛍光性はやや低め |
〇エメラルド
エメラルドは産出国によって色味や内包物が異なります。
エメラルドの主な産地は1520年代まではエジプトでした。
古代エジプトの女王・クレオパトラ、エメラルド鉱山を「クレオパトラ鉱山」と自身の名前を付するほどエメラルドを好んだと言われています。
このクレオパトラ鉱山跡は、1818年、フランス人によって発見されています。
産出国 | 母岩 | 採掘の歴史 | 特徴 |
コロンビア | 堆積岩 | 1537年、スペイン人が鉱山を開き、17世紀にはエメラルドの生産は大規模なものになっていた。 | 原石は六方柱形。 深みのある緑色 透明度の高い鮮やかな緑色 |
ブラジル | ― | 最初に発見されたのは1963年だが、発掘が盛んになったのは1970年代に入ってから。 | 明るい緑色 やや濃い青緑色 |
ザンビア | ペグマタイト タルクマグネタイト | 1931年に初めて発見。 | 丸みを帯びた形が特徴。 透明度が高い、ブルーに近い緑色 |
採掘場所と採掘方法
宝石の原石の主な採掘場所や方法は次のようなものがあります
場所 | 方法 | 説明 |
川 | ・パンニング | 川の中で、ザルのような底の浅い大きな器を揺り動かしながら砂を流して鉱物を探す方法。 パンニングは重さの違いを利用しており、全世界で広く行われている。 フライパンのような底の浅い器を英語で「pan」というが、それが転じて動詞で「(砂金を取るために土砂を)洗う」という動作を表すようになり、そのing形で「パンニング」という。 |
パイプ鉱山 (一次鉱床) | ・爆薬を仕掛けて粉砕した岩石を回収 ・ドリルなどの工具を使った掘削 | 地面に開けた大きな穴から鉱物を採掘する方法。 「パイプ鉱床」とは、噴火によって鉱物が地下深くから地表に運ばれた場所が冷却し固定し部分のこと。形状がパイプに似ているため、「パイプ」と呼ばれている。 |
漂砂鉱床 (二次鉱床) | パワーショベルやブルドーザー等を使って砂利を回収 | 「漂砂鉱床」とは、長い年月の風化や浸食により母岩から自然に分離し、海や川に充填した鉱床のこと。 |
宝石は、どんな環境で生成されたの? ―エメラルドの場合―
鉱物は、いつ、どのような環境で生成されたのでしょうか。
たとえばエメラルドの場合、エメラルドの明るい緑色をもたらしているクロムとバナジウムは、上部マントルの岩石中に凝集されているため、エメラルドに必要な元素をすべて集めることは不可能に近いと言えるでしょう。
では、なぜ「エメラルド」という宝石は誕生したのでしょうか。
地球の表面の厚さ約100㎞の部分をプレートと言いますが、このプレートが互いに動いて大陸が移動したことで、エメラルドを生成するための条件が奇跡的にそろったと考えられています。
つまり、エメラルドは大陸衝突時に頻繁に生成されたということです。
エメラルドの結晶が小さめでひび割れやインクルージョンなどの内部欠陥を伴っていることが多いのは、エメラルドが非常に不安定な環境下で起きた変化で形成されたためだと言われています。
このように考えると、宝石はそれぞれに生まれてくるまでに奇跡の物語があるのだと想像できます。
日本では宝石が採れる?採れない?
「宝石」と聞くと海外で採掘されたものが日本に輸入されているというようなイメージがあります。
しかし、日本でも10種類以上の宝石を採ることができます。
宝石 | 採掘場所 | 説明 |
珊瑚 | 高知県沖、小笠原諸島、 五島列島、奄美大島など | 赤サンゴ、桃色サンゴ、白サンゴなど、色のバリエーションが多い。 |
真珠 | 愛媛県、長崎県、三重県 | 1893年に半円真珠の養殖に成功。日本産の真珠の養殖では、アコヤ貝が使われることが多い。 |
水晶 | 日本の全国各地で採れるが、歴史があるのは山梨県 | 日本では1千万年前から採掘されている。 |
翡翠 | 新潟県など | 古事記にも記されているほど、日本では古い歴史を持つ宝石の1つ。 |
琥珀 | 岩手県、福島県、千葉県、北海道など | 太古の樹木の樹脂が化石化したもの。 日本では縄文時代に装飾品として使われていたとされている。 |
まとめ
【STEAM教育と特別展「宝石」②】では、「宝石の原石って、どこで、どのようにできるの?」という疑問に触れました。
宝石の原石が生成される過程を調べているうちに、「では実際にどこに宝石があるのか?」という疑問が湧き、今回は「宝石はどこで採れるの?」ということに触れてみました。
この記事において、採掘される地層の定義、「母岩」という言葉、そして宝石の原石が採掘される条件にどのようなものがあるのかが理解できたでしょうか。
こうして調べてみると、宝石にはそれぞれ生まれてくるまでにキセキの物語があることが分かり、とても楽しくなってきます。
現在、東京・上野の国立科学博物館で 特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」が開催されています。
この展覧会では、主な宝石産地の世界地図も展示されています。
まもなく閉幕してしまいますが、この機会にぜひ足を運び、宝石が生まれてくるまでの物語に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
展覧会名:特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」
会場:国立科学博物館 地球館地下1階 特別展示室
会期:2022年2月19日(土)~6月19日(日) ※日時指定予約制
【参考】
- アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol. 4 宝石の科学―ルビーの原産地とその処理(二)/GSTV 宝石の科学
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