【親になるということ】スマホ育児にすらなっていない?風景<その2>
前回に引き続き、スマホに対する大人と子どもの認識の違いについてもう少し考えてみましょう。
<その1>で私は、大人はある程度の年齢になってから携帯電話などのモバイル機器を使うようになったため、「スマホを使っていることを意識しているし、理解している」とのお話をしました。このスマホを使っているとはどういうことなのか、ということですが、端的に言うと「インターネットを利用している」という認識のことになります。
少し昔(25年くらい前)の話ですが、私たちの生活の中にインターネットが入ってきたころは、パソコンに電話のモジュラージャックを差し込み、専用のソフトウエアを利用してインターネットを使用していました。FAXを送るときのような音が響いて、まさに「いま、インターネットを利用している」ということがはっきりわかる状態でした。使用する金額に関しても基本的には従量制で、固定電話と同じような状態(電話回線をつないでいましたからね)で、毎月いくらかかるか気にしながら使っておりました。
それが、新しいOSが発売されるたびに進化し、モジュラージャックからLANケーブルに替わり、WiFi(無線接続)になり……買ってきたばかりのパソコンに接続先の設定さえすれば、すぐにインターネットにつながる、むしろつながっていないと初期設定すらできない状態になってきました。
いま20代、30代の方でも、ブラウザでWebサイトを表示しながら、「いま私はインターネットを使用している」と自覚する人は少ないと思います。技術の進歩は本当にすごいですね。それでもパソコンを使うときには「WiFiにつなぐ」という作業が必要なので、動画やSNSを見るときにはインターネットが必要という理解はできると思います。
しかし、スマホはどうでしょうか。携帯ショップで契約をして、スマホの電源を入れたその瞬間からインターネットにつながっています。アプリさえあれば、すぐに動画もSNSもなんでも使うことができるのです。
4G、5Gという通信規格は変わっても、それはインターネットにつながっていることを前提にした上での「速さ」の認識でしかありません。こうなると大人の私たちでも、「私はいま、インターネットを使っている」と意識することは難しくなってくると思います。
それでもパソコンを使った経験と、それまで生きてきた中で得た知識があるので、「インターネットにつながるということがどういうことか」については、説明されればイメージをすることができるのです。この「説明されればイメージできる」というところが、大人と子どもの違いだと思います。
私はよく講座で、「スマホを持つということは、常時インターネットにつながっている小さなパソコンのようなものを、手の中に持っていること」という説明をするのですが、子どもたちは言葉として理解しても、実感としてわかっているとは思えません。なぜなら、最初からつながっている状態が「当たり前」だからなのです。
私たちが、「スイッチを入れると照明がつく。ああ、私は外の電線から我が家につながっている電気を使っているのだな」なんて思わないのと一緒です。大人の当たり前は、「インターネットの契約をしているのだから、つながるのは当たり前」。子どもたちは「パソコンやスマホは電源をつけたらネットが使えるのが当たり前」。この、当たり前の認識にズレがあるということがポイントだと思います。
この「当たり前のズレ」は、インターネットに限ったことではありません。大人が経験と知識の蓄積から身につけている常識は、子どもにとっては未知の世界であったりするのです。ここを頭に入れておくと、子どもとの接し方が変わってくると思います。
例えばよく保護者の方から聞く「うちの子は〇〇ができない」「毎日注意するのに■■しない」という言葉。この、できない、しないは、本当に彼らの意思でしょうか。大人が自分の常識でこんなに簡単にできるのになぜしない(できない)と思っていませんか? お子さんの行動であれ?と思ったら、
- わかっていてもできない
- わかっているけれどやらない
- そもそもなぜそうするのかを知らない(から、できない)
のうちどれに当てはまるかを考えてみてください。特に「知らない」場合は、まずは経験させることが大切です。口で言ってもイメージができないのですから。子どもがどういう状態なのかがわかれば、そのあとの対処の仕方もわかります。すると、無駄にイライラしないで済むのです。
スマホなどのインターネット機器も同様です。スマホは便利な機械ですから、子どもにちょっと静かにしていてほしいとき、手が離せないとき、子どもに渡すこと自体を否定するつもりはありません。子どもたちに機器を使わせないということもおかしい話だと思います(だって、感電するから電気は使わせない、ということにはならないですよね?)。
ですが、渡す際には「自分とこの子では、スマホについての認識が違う」ということを頭に入れておいてください。生まれたときから身近に存在するもの、という経験は、反対に私たちにはないものなのです。 何かしらの経験がある私たちとはまったくちがう価値観でインターネットと接していくのが、これからの子どもたちです。だから頑張って想像力を働かせましょう。大切なのは、「自分の視点(価値観)だけで子どもと接しない」ということです。
この記事を書いたひと
吉田 理子
(よしだ りこ)
1971年生まれ。Windows95発売当時に社会人となり、以降パソコン教室講師やITサポート等の仕事に従事。2005年に企業・学校向けのIT、情報教育を目的とした企業組合i-casket設立。2018年には一般社団法人s-netサポーターズを設立し、主に小中学校にて子供・保護者・教員向けの情報リテラシー、プログラミング的思考に関する講座を行う。そのほか地域ボランティアや主権者教育の活動をボランティアで。趣味は料理と読書。